展示解説南極海の魚類 Antarctic Fishes

 

南極海は時計回りに周回する海流にとり囲まれることから北の海域から隔離されきわめて寒冷な環境が保たれています。そのため南極海にはこの海域の中だけで進化を遂げた種が多く存在します。南極海からは約120種ほどの魚類が報告されていますが、その多くは南極海にのみ生息する、いわゆる南極海固有種です。そのなかではノトセニア亜目というグループに属する種類が80%近くを占めており、南極海を代表するグループといえます。
 ノトセニア亜目に属する種の一部は、外見上ハゼやキス、コチなどの日本近海に分布する底棲魚に似ていますが、系統的にはこれらとはかなり異なったグループです。昭和基地周辺で採集される魚類の主だった種は

ショウワギス、
ウロコギス、
ボウズハゲギス

などで南極大陸沿岸域に広く分布する種です。
 ノトセニア亜目に属するコオリウオ科の魚類は、血液中にヘモグロビンを持たないという、魚類はもとより,脊椎動物としてもほかに類をみないきわめて特殊な特徴を持ち,南極海と南アフリカ南端近海にのみ分布する珍しいグループです。ヘモグロビンがないため血液は赤くなく、筋肉や鰓(えら)も白色で、各組織への酸素の供給は直接血漿(けっしょう)中にとけ込ませておこなっていると考えられています。
 南極海の魚類は生態系においては比較的高次の捕食者で,主としてオキアミ類をはじめとする小型の甲殻類や、ゴカイ、クモヒトデなどの底生無脊椎動物や小魚を補食していますが、一方、ペンギンやアザラシの餌としても生態系において重要な役割を果たしています。同じ種の魚でも成長段階や分布域によって餌とする生物が変化してオキアミの豊富な海域ではオキアミしか食べない種も、他の海域ではゴカイやヒトデ類など、目につくものは何でも捕食しています。
 大陸沿岸に分布する種は、しばしばその生息環境が氷点下になるため、常に体の凍結という危機にさらされています。南極海に生息する魚類の多くは、体内における氷の結晶の生成、生長を防ぐために体液中にある種のタンパク質をもつことによって対処しています。実際に氷の直下に生息するボウズハゲギスの稚魚などは、シャーベット状の氷の中に閉じ込められてもまったく平気で、その厳しい環境に対する対応の姿が観察されます。

南極海は世界で最も研究の進んでいない海域ですが、なかでもやや深い中深層(200m以深)とよばれる領域はさらに未知な部分が多く、どんな生物がどんな生活を営んでいるか未だによくわかっていません。東京海洋大学では2003年から、おもに表層(0m)から水深2000mまでの中深層で、稚魚ネット、中層トロール、RMTネットなどのさまざまな曵網をもちいて魚類・遊泳生物の採集をおこない研究を進めています。

当館では、

クロスイショウウオ Pseudochaenichtys georgianus
ホソサラサウオ Notothenia larseni
コモンサラサウオ Notothenia nudifrous
ナンキョクカジカ Notothenia gibberifrons
ウミタカスズキ Notothenia rosii
スイショウウオ Chaenocephalus aceratus
カモグチウオ Parachaenichtys georgianus

といった南極海固有の魚類標本を2F展示室に展示しています。

[_茂木正人_]



ナンキョクオキアミ/南極海の魚類/南極海のタコペンギン目カニクイアザラシ
マッコーリー島の巨大褐藻ビームトロールによる生物採集

口絵:Cryodraco atkinsoni, Regan, 1914(コオリウオ科). British Antarctic ("Terra Nova") Expedition より
挿絵上:海鷹丸によって採集されたばかりのノトセニア亜目魚類の仔稚魚.[ 撮影:茂木正人 ]
挿絵下:海鷹丸第2次南極航海(
1962年)で採集されたウミタカスズキ Notothenia rossi.[ 写真:水産資料館 蔵 ]

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