東京海洋大学
マリンサイエンスミュージアム
Museum of Marine Science, Tokyo University of Marine Science and Technology
鯨ギャラリー

 展示解説:セミクジラ Northern Pacific Right Whale*)

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クジラ類は陸上哺乳類を祖先に持つ海に棲む哺乳類の一グループ(クジラ目)で、セミクジラはこのグループのうちヒゲクジラ亜目セミクジラ科に属する大型の鯨類です。2000年~2001年にかけてIWC科学委員会で行われた鯨類の分類再編では、セミクジラは北太平洋特産種のみを指すこととなりました**)。
ヒゲクジラ類では通常、雌が雄よりも大きく、セミクジラでも雌は最大で体長18m(雌、体重70トン)にも達しますが、雄はこれより1mほど小さくなります。上の図の様にずんぐりとした体型が特徴で、頭部は体長の30%以上もあります。上顎(じょうがく)は大きく湾曲し、下顎(かがく)の唇もこれに沿って大きく上方にせり出しています。頭部を前面から見ると、上顎を頂点としたほぼ正三角形に見え、上顎と下顎には角質のコブ状隆起列(りゅうきれつ)が並び、上顎に先端には“ボンネット”と呼ばれる大きなコブがあります。噴気孔(ふんきこう;鼻の穴)や目の周辺にもコブがあり、これらの部分にはクジラジラミ等の外部寄生虫が多数寄生しています。背鰭(せびれ)はなく、浮上した時には小山のような背中が浮かび上がり、この様子が“背中が美しい(背美-セミ)”もしくは“水がはじけるようで背中がかわ乾きあがる(背乾-セビ)”が本種和名の語源になっています。胸鰭(むなびれ)は幅広く、全身が黒色であるが、臍(へそ)または喉(のど)を中心に不整形の白斑(はくはん)があります。ナガスクジラなどの喉から胸にかけて見られる畝(うね)はありません。

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上顎にはクジラヒゲと呼ばれる細長い三角形状の餌濾過板(えろかばん)が両側に下向きに付属しています。片側210~270枚もあり、最長部では長さ3m近くにもなります。ギャラリーには骨格標本と同じ個体から採集した実物のクジラヒゲを展示してありますが、このクジラヒゲは上顎から下向きに櫛状に並んでいて、内縁の繊維がささくれて繊毛状になり、この繊毛が重なり合いザルの目のようになっています。セミクジラは上の写真のように大きな口を開けながら泳ぎ、プランクトンネットのようにこのクジラヒゲにかかるコペポーダ(かいあし類)などのような小さな餌生物を漉し取って食べています。

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東シナ海、日本海、オホーツク海、北太平洋中・北部、ベーリング海南部、アラスカ湾、カリフォルニア半島南部に分布するが、明瞭な季節回遊(かいゆう)がみられ、冬季は中緯度で繁殖し、夏季には高緯度のオホーツク海やベーリング海へ移動して摂餌(せつじ)をおこないます。
_セミクジラは体も大きく多量の脂肪を含むため、捕獲後も水面に浮き、太古より先住民の捕鯨の対象となってきました。我が国では古式捕鯨の主要対象種でしたが、アメリカ式捕鯨等の欧米帆船式捕鯨が日本近海へ進出して大量捕獲を行い生息数は著しく減少しました。1937年以降国際的に保護されていますが、未だに目立った回復は見られません。2000年時点の西部北太平洋域の生息頭は1,000頭弱程度と推定されていますが、実際にはこの頭数よりは多いものと考えられます。東部海域には推定可能なデータがありません。

[ 大隅清治・加藤秀弘 ]

*)Black right whaleと呼ばれる場合もある。
**)鯨類は現在82~83種、ヒゲクジラ亜目(4科13~14種)とハクジラ亜目(10科69種)に大別される。ヒゲクジラ亜目セミクジラ科には、セミクジラの他に南半球産のミナミセミクジラ(Eubalaena australis)と北大西洋産のタイセイヨウセミクジラ(E. glacialis)がいる。

口絵:鯨ギャラリー内 セミクジラ全身骨格 水産資料館 蔵
挿絵 (top):セミクジラの特徴的な外形(薮内正幸 画)[copyright reserved by Masayuki YABUUCHI]
挿絵(middle):口を大きく開けて泳ぐセミクジラと、体長3mmほどの主要餌生物であるカイアシ類(copepoda)(ともにPCCS蔵) [copyright reserved by PCCS]
挿絵(bottom):セミクジラ(北太平洋産)、タイセイヨウセミクジラ(北大西洋産)、ミナミセミクジラ(南半球産)の分布範囲

 

 

 

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