展示解説 もっとくわしく!: 魚類 Fishes

 

魚類の分類学
魚類の分類体系は良くも悪くも「よく変わる」といわれています。しかし、これは魚類分類の研究者が皆熱心だからだと思います。
 魚類を含めて動物の分類では、いかなる個体も「入れ子」状になった、界
(Kingdom)、門 (Phylum)、綱 (Class)、目 (Order)、科 (Family)、属 (Genus)、種 (Species) といったそれぞれの分類単位に所属しています。たとえばコイならば、

動物界 Animal Kingdom
_ 脊椎動物門 Phylum Vertebrate
__ 硬骨魚綱 Class Osteichthys
___ コイ目 Order Cyprinoidea
____ コイ科 Family Cyprinidae
_____ コイ属 Genus Cyprus

の「コイ」という種です。
 そもそも「分類」という行為は、あとで利用するのに便利だから整理するというものです。生物分類の出発点もこれに相違ありません。しかし、人間の知的探究心はそれを許さず、生物分類は「系統進化における類縁関係の詳細な検討結果に基づいておこなわれるべきだ」ということになりました。魚類でも、多くの種で詳細な外部・内部の形態比較がおこなわれ、それまでの「他人の空似」を含んでいた分類は次々と排除されてゆき、現在の分類に至っています。もちろん現在も魚類の分類は『進化』の途上にあります。現在では遺伝子までもがその検討材料になってきています。似ても似つかぬ魚が親戚同士になることもあります。生物分類学とはもはや「ものの整理」にとどまらず、生物の系統進化を究明するための究極的な生物学であり、分子生物学、解剖学、生態学、古生物学などを集結した総合的な学問領域となってます。

魚類って分類単位?
 
さて、「魚類」とはどういう分類単位でしょうか。
 1800年代には脊椎動物門の下に設けられた「魚綱」のことでした。これには現在では別の門である原索動物門に属するホヤやナメクジウオも含まれていました。
 近年までの分類学における「魚類」とは狭い意味では顎口類のことを指しますが、広い意味では無顎類をも含めます。分類学的にいうと、以下のようになります。

魚上綱
_無顎口綱(円口綱)
__メクラウナギ目
__ヤツメウナギ目
_顎口綱
__板鰓下綱(軟骨魚類)
__硬骨下綱(硬骨魚類)

話がやや難しくなりますが現在の系統分類学の考え方では単一の祖先から分岐(進化)した全ての種を含むグループを「単系統群」 monophyletic group とよびます。ここで重要なのは「全ての種を含む」ことで、グループから一部の単系統群を除いた残りは「側系統群」 paraphyletic group と呼ばれ、分類の単位としては認められません。
 さて、現在の脊椎動物の系統仮説をみてみましょう。

     ┏_メクラウナギ類___  ──────────────┐
    
┏┫____                       
    
┃┗_ヤツメウナギ類___                
    
_   ┏_軟骨魚類__                 魚類
脊椎動物┫_   ┃_    __                
    ┗
_顎口類┫_    ┏_条鰭魚類_           
     
_   ┗_硬骨魚類┫_    ┏_シーラカンス類   
     _    _    ┗_肉鰭魚類╋_肺魚類  ─────┘
     _    _     _    ┃_    ┏_両生類
     
_    _     _    ┗_四肢動物┫_   ┏_ほ乳類
                     
____  ┗_羊膜類┫┏_有鱗類
                     
_____      ┗┫┏_鳥類
                     
_____       ┗╋_カメ類
                     
_____        ┗_ワニ類

この系統仮説において「四肢動物」は単一の根元から枝分かれした単系統群を形作っているのがわかるかと思います。ところが「魚類」としてまとめられている分類群は、それよりも根元から順次枝分かれしており、共通の祖先を持ったまとまったグループを形成しない「側系統群」となっています。近年までの脊椎動物の系統の考え方ではちなみに無顎口類(円口類)と顎口類は「上綱」という分類単位が与えられてきましたが、学術的にはそれぞれを規定する証拠が怪しくなり、現在では「魚(上)綱」という分類単位は消滅し、「魚類」とはメクラウナギ綱、頭甲綱(甲冑魚-化石のみ)、軟骨魚綱および硬骨魚綱をひとまとめにした習慣的な呼称にすぎないものとなっています。「魚類」とは、科学的な分類単位ではなく、いわゆる通俗的な「おさかな」とかわりありません。それでも魚類という言葉が捨てられることはないでしょう。便利ですから。

[ 打木研三 ]

参考文献
倉谷 滋
(2004) 動物進化形態学.東京大学出版会、611p.


もっとくわしく!
サメ類/サケマス類/コイ類/チョウザメ/海産魚類/深海魚/南極海の魚類
コラム:魚類標本の種類/魚類透明骨格標本の作り方

(C) Museum of Fishery Sciences 2005. All rights reserved.